その春風に吹かれて〜真奈編〜
運ばれてきたハンバーガーとポテトを目の前に
彼女は目を見開いた。
ゆっくりとポテトに手を伸ばすと、一本を手に取り口に運んだ。
「おいしいっっ!」
目を丸くして2口で一本を食べると、ふっと我に返った様に私を見て言った。
「これ、食べたことある?」
私はキョトンとした顔をしただろう。
「う、うん。」
それしか言葉が出なかった。
「これ、すごく美味しいっ。こんなポテト初めて食べた!人気があるわけね。なんだか、ワクワクしてきたっ!」
子供みたいに目を輝かせて彼女はパクパク食べていた。私が初めてマックに連れてきてもらった時のワクワクを思い出した。
母親と2人でおもちゃ付きのセットを2つ頼み、おもちゃを2種類独り占めしたあの時。
嬉しそうな私を見て微笑んだ母親の笑顔と、私の嬉しい気持ち。
やっと出来た贅沢よりも2人の時間と母親の笑顔が私はたまらなく嬉しかった。
誰かと共有した秘密を持った嬉しさに
どこか似ている気持ち…
私が物思いにふけっている間に、彼女はバーガーもペロッと食べて言った。
「みんなに怒られちゃうから、食べたことは内緒にしてね!マナ、また会える?会いに来てくれない?私、病院にいるの。後で田所から場所を伝える様に言っておくから。これはきっと神様からのプレゼントよ!このマナとの出会いははきっと!」
自信の溢れた表情の彼女の瞳の中に私が見えた。
一私の存在がある。一
誰にも必要とされない
誰にも存在が認めてもらえない
どこにも居場所がない
そう思っていた私が綺麗な真っ直ぐな瞳の中に住んでいた。
飲んだコーラが血として体を流れてくるような、生きている生々しい自分を久しぶりに感じた。