なな色のお話達

思いついたままに

色の無い世界⑧ 〜赤の妖精〜


真っ赤な木のドア。

金のドアノブ。

僕は不思議と緊張とか不安とかはなく、 
体全体で進むことしか考えていなかった。

ママと番人が見守る中、
ゆっくりドアノブを回した。

回したドアノブをゆっくり押す。

開いたドアの向こうは
真っ赤な紅葉の森だった。

ゆっくり一歩を踏み出し
ドアの中に入った。

振り向くことはしなかった。

バタン。

ドアが閉まった音がしたので
振り返った。

まさか、ドアは消えるんじゃ?

ドアは消えなかった。

少しホッとして
改めて
この紅葉の森を見渡す。

なんて綺麗なんだ。

隙間の無い生い茂った木々。

舞い散る葉と落ち葉で上も下も周りも
一面、真っ赤だ。

白黒の世界から赤だけの世界に
入ったから
ちょっと刺激が強すぎる。

胸が高鳴る。
ドクンドクンと心臓の音が大きくなっている気がする。

さて、
虹の番人によると
色の妖精を集めるだったな。

右も左もわからないけど、
とりあえずドアを背にして真っ直ぐ歩こう。

TVでしかみたことないような
真っ赤な紅葉の中を
胸のドキドキと共に進む。

15分くらい歩いていると
急に森の終わりが見えた。

木の切れ目と共に現れたのは
赤いレンガの家が並んでいた。

おとぎ話に出てくるような、グリム童話に出てくるような、レンガで組み立てられた
煙突から煙が出ている
小さな一軒家。
丸みはなく四角のカクカクした家や
逆に綺麗な丸に組まれたレンガの家など
両極端な家が道を挟んで立っている。

…人が住んでいるんだ。

森を抜けたところからクネクネと
大きく曲がりながら道が続いていたが
一番手前にある家を訪ねてみようと思った。

煙突から煙がでているから
中に誰かいるだろう。

赤いレンガに真っ赤なドア。

赤い世界だからか。

右手をスッと上げるとドアを軽くノックした。

コンコンッ

「こんにちわ。」

僕はドアに向かって言った。
言葉も通じるのかな?

ガチャッ

中からドアが開くと
赤い髪に赤い服、真っ赤な口紅の
綺麗なおばさん?おねぇさん?が立っていた。

綺麗なおばさんは僕を上から下まで見て
言った。

「どうしたの!?どこからきたの!?」

少し眉間にシワを寄せながら
ハキハキとした声で僕に問いかけてくれた。

「どこから来たと言えばいいのか…。
ただ、白黒になってしまった世界に色を取り戻すために赤の妖精さんを探しているんです。」

僕の話に赤いおばさんは目を大きくした。

「中にお入り!」

赤いレンガのお家の中は
それはもう刺激が強すぎるほど
赤いものだけしかなかった。

赤いテーブルの上には
赤いグラスに注がれた赤い飲み物。

血じゃないよな。笑

おばさんは赤いグラスをもう一つ持ってきて
そこにまた赤い飲み物を注ぐ。

「座りなさい。」

僕はその飲み物の前に座った。

「どうぞ」

おばさんはその飲み物をくれた。
僕は恐る恐るグラスを口に運んだ。

‼︎!


自分で警戒しておいて
ちょっと笑いそうになった。

おばさんは僕の反対側の椅子に座ると、
僕をジッと見つめて言った。

「で、簡潔に話すわね。うちには17歳になる
娘がいるの。あなたの探している妖精は
うちの娘よ。
もうすぐ帰ってくるわ。
そうしたら、娘と一緒に次のオレンジ色の国に行くのよ。
…ついにこの日がきたのね。」

おばさんがすぐに理解してくれたようで
テキパキ話してくれたので
話は早かった。

僕は色のついたトマトジュースを久しぶりに
飲んだのですごく美味しく感じた。
ママが好きなトマトジュース
冷蔵庫に入っているけど、あんまり飲む気がしなかった。
飲み干してから質問した。

「ついにこの日?」

おばさんは僕のグラスにもう一杯
トマトジュースを注いでくれながら
話始めた。

「私達が住む虹の世界の住人はみんな知っていることなの。
色の妖精を訪ねてくる10代の若者が現れたら、
その色の国の20歳になる前の者、一人づつと
虹を渡ること。
それがいつの時代なのかはわからない。
だから私も20歳になるまでは、夢見たのよ。
その選ばれし妖精は私かもって。
だけど、私達の世代では現れなかった。

まさかそれが私の子供の世代だとはね。」

ニッコリ真っ赤な唇を引き上げて笑った。

魔女だ…。笑

綺麗なんだけどなんだか少し怪しげな
ミステリアスな雰囲気の女性だな。

ポワンっとしたママとはタイプが違う。

そういえばママが言ってた。
…魔女じゃなくて、美魔女っていうと
おばさんは喜ぶのよ。

「17歳の娘さんがいるようには
みえませんね。美魔女です。」

僕なりの褒め言葉だった。

おばさんはまた目を大きくして
ワッハッハと
大きな声で笑った。

この世界でも"美魔女"は通用するようだ。




























色の無い世界⑦


「じゃぁ、ママ!行ってくるね!!」

スタスタとドアに向かう息子。

息子のためらいの無さと反対に私はまだ
頭の中で何も整理ができていなかった。

息子に叫んだ。

「コウ!あんた本気!?」

息子は足を止めて、私のほうを振り返った。

堂々とした真剣な眼差しは
何かが彼を一回り大きくさせていた。

「誰かが行かないと行けないんだよ。
それが僕なら、こんなに光栄なことはない。
ママ、前みたいなちゃんと色のある世の中で
暮らしていこう。大丈夫。
本当にそんな気がするんだ。」

普段の日常では何気ない普通の会話しかしていないから、こんなドラマのセリフのような言葉が出てくるなんて。

だけど、
私も感覚人間だからその根拠のない
「大丈夫」はよくわかる。
そう思うと何だか暖かい気持ちになった。

大人になったなぁ。

私の顔も少しほころんで
微笑みに変わっているだろう。

「自慢の息子だよ。気をつけてね。」

私がかけた言葉に
彼も微笑みながら、うなずいた。

虹の番人がコウをドアに誘導する。

これもまた、不思議な光景だ。

赤く、色はあるけど透けている虹に
赤い木のドアがついている。

コウはゆっくりドアノブを回しドアを開けた。

よく見えなかったけど、中も赤い色が見えた。

コウがゆっくり戸惑う様子もなく
入っていった。

夢でも見ているかのような光景に
何が何かわからず
ただ、見守るしかなかった。

ゆっくり閉まるドア。

本当にこれでよかったのだろうか。

バタン。

ドアが閉まりきったと思ったら
ドアも虹も消えた。

「では、僕の役目はここまでなので。
お会いできて光栄です。」

虹の番人が私に言った。
その瞬間、
人間の形をしていた体がシュルシュルと
小さくなって、
動物になった。

!?

その動物は猫みたいだけど
もう少し大きくて
なんか見たことあるけど…

その動物は私の目をジッと見つめた後、
ふっと山奥へ走っていった。



あ!!

ライオンの子供だ!!

こんな普通の山にライオンいるの!?














色の無い世界⑥


番人は言った。

「もしかして君、13才?」

息子を見てニヤっと笑った。

「はい。」

息子は落ち着いた口調で答えた。

息子の答えに番人は言った。
「よし、決定だな!

改めまして、僕はレインボードアのキーパーの
パルです。
この色の無い世界に色を取り戻す為に
必要なことがあります。

その為にはまず
13才であるキミが
このドアを開きレインボーの世界に住む
カラーの妖精を…」


「ちょちょちょっと、まって!!」

私は思わず口を挟んだ。

「パルさん?これはテレビの撮影か何かですか?
全く状況が読めないんですが。」

私の質問は間違っているだろうか。

息子と番人は私を見て、やれやれと
いわんばかりの顔をした。

「わかりました。息子さん?」

「はい。僕はコウです。」

「君はもう、なんとなくわかっているようだから
お母さんに説明します。
お母さん。
まず、ここまでコウくんを連れてきて下さり
ありがとうございます。

僕の役目が終わります。

レインボードアのキーパーは
各国や場所に存在しています。

しかし、ドアの前にくる少年が必要なんです。

レインボーが現れるのは一時的。

その間に見つけてたどりついてもらわないと
消えてしまう。

また次のレインボーが現れる時まで
このチャンスが繰り返される。

そして、なぜ少年をまっているのか。

それは
この色の無い世界に色を取り戻すためです。」

番人はスラスラと説明した。

私はただ聞いていた。

「そして、コウくん。
君は今からレッドのドアを開けてもらうよ。

ドアから中の世界に入れば、スタートだ。

まずはレッドの世界。
そこでレッドの妖精を連れて
次のオレンジのドアへ進む。

オレンジのドアはレッドの世界の奥にある。

各色の妖精が7人集まったら
最後のパープルの世界を出る。

レインボーの世界から出たら
オーロラという神様に出会えるはずだ。

あとは
オーロラに妖精達からお願いしてもらうんだ。

この世界に色を…と。」











色の無い世界⑤


不思議だ。

車を40分くらい走らせた。

虹のふもとに来た。

誰も見たことがないであろう、虹の端っこ。

私と息子は山道に車を止めて、山の中まで歩いて入った。

よく考えれば危険だが、それよりも
不思議なことになってしまった。

静まりかえった森の中。
マイナスイオンと道なき道。

虹のふもとと思われる物は
地面からゆっくり上へカラーを放っていた。
大きさはわからないが、
横に見渡すと赤の色からオレンジ色にグラデーションになっている
ところまでの範囲が見える。

「ママ、この人たぶん虹の番人だ。」

白黒の森林の中で見つけた虹のふもとには
横たわった男がいた。
寝ているようだ。

ツバをゴグリと飲む。
緊張とドキドキと共に急に不安が襲ってきた。

旦那さんについて来てもらえばよかった。

2人だけで、危ない。
こんな森の中に!

私の不安をよそに
息子がその男に話しかけた。

「あの…すみません。」

息子は私より少し前へ出て
男を覗き込むように声をかけた。

ちょっと!!っと心の声と共に
息子の腕を掴んだ。

「大丈夫。本当にそんな気がするんだ。」

私の方を振り返り目をしっかりみてきた。
落ち着いた顔と声に
大人になっていく息子が見えた。

「あのう…」

息子がもう一度声をかけようとした時、
虹のふもとで横たわっていた男は
目をこすりながら起き上がった。

「あれ、どうしました?」

20代前半くらいに見える男は
全身毛むくじゃら。
人間の顔に猫の特殊メイクがしてあるように見える。
体や手や足も着ぐるみを着ているようだ。

でもちゃんと服はきている。

「あなたは虹の番人ですか?」

…おい、息子よ。
このおかしな光景に
その唐突な発言はなんだい。
どう見ても怪しい人だよ。
初対面だよ。

冷静に聞く息子に戸惑いと疑問と笑いを感じた。

「そうですよ。」

さっきまで横たわっていた獣男は
背筋をスッと伸ばし
微笑んだ。












色の無い世界④


その日私は息子と買い物に出かけていた。

車を運転していたら
助手席の息子が大きな声を出した。

「あ!‼︎」

中学にあがり声変わりした息子の声は
まだ聞きなれない。

「なに!?急に!!ビックリするから危ないじゃない!!」

私はハンドルを強く握り
眉間にしわを寄せて言った。

「ママ!!ほらあそこ!!虹だ!!」

中学に上がっても
私と2人の時はママと呼ぶ。

「え!?どこ、?」

息子のほうをチラッとみると
助手席の窓の外を指差していた。

「ほら!あそこ!!」

土手沿いを走行中だったので
少し先の路肩に車を止めた。

息子に寄りながら指をさす方を見た。

「…どこ?」

指先と見比べてみる。

「まだ消えてないよ。あそこっ!山の間!」

山の間…
目を凝らしてみる。

ドクンッ!!

心臓に衝撃が走った。

「に、虹だ!!」

遠くの山と山の間に確かにうっすら
虹が見える。

「行くよっ!!」

私は何を思ったか
虹に向かって車を走らせた。

息子に方向を確かめてもらい
土手沿いから橋を渡り
山を目指した。

虹のふもとなんて
ないのだろうけど
私には希望だった。

本当は子供にしか見えないと
思われていた虹の話。

だけど確かにみえた。

夢中で無心で虹に向かった。





色の無い世界③


友人と食事を済ませ
また店に戻る。

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店内は白と黒の服しかない。

元々はカラフルだったのに。

「ただいまぁー」

店内の奥で姪っ子がiPadで動画を見ていた。

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「あら、来てたの?」

近くに住む妹が
旦那さんと買い物にきていた。

「おねぇちゃん!今  話してたんだけど、
今日この子が虹をみたのよ!
お絵かきした時に虹の絵を描いたの!
保育園で見たってゆうの!
赤、黄色、青って!」

妹は目と口を大きく開けて話した。

「先生たちには見えなかったみたいだけど、
園児達には見えてたみたいで
子供達が、
先生!にじぃ〜!
って同じ方向を指差していたらしいわ。 
みんな赤!とか緑!
って嬉しそうに言ってたみたいなの。
虹よ!しかも子供にしか見えないって!
なんかすごくない!?」

興奮気味に話す妹の横で妹の旦那様は
元々は鮮やかなブルーだった、
グレーのデニムを試着している。
 
「へー。なんなんだろうね。
でも、なんか夢のある話ね。
たしかに子供達限定なのも、不思議。」

私のちょっと微笑みながらの返事に
妹が落ち着いて言った。

「また普通の色のある暮らしに早く戻ればいいね。」

私はゆっくり頷いた。











色の無い世界②


「今日、予約ある?ランチ行かない?」

親友からのランチのお誘いの電話。

旦那様に相談すると

笑顔で
行っておいで、と言ってくれた。

友がお店まで迎えにきてくれたので
車に乗り
15分くらい走って
知り合いのバイキングのお店へ。

…うわぁ。
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全然
美味しそうに見えない。
(作った方ごめんなさい。)

ちょっと
何がなんだかわかないし
食欲がわかない。

食べてみると不思議なことに
味もよくわからない。

サラダや明らかにわかるものは
記憶の中の味を思い出す。
コレは何だろうと思うものは
色が付いていないと味も分かりづらい。

食べる楽しみや喜びは
目で見て楽しむことの大切さを実感する。

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大好きなスイーツも
色を失い
ストレス発散どころか
逆にストレスになりそうだ。