なな色のお話達

思いついたままに

その春風に吹かれて〜真奈編〜

 

運ばれてきたハンバーガーとポテトを目の前に

彼女は目を見開いた。

 

ゆっくりとポテトに手を伸ばすと、一本を手に取り口に運んだ。

 

「おいしいっっ!」

目を丸くして2口で一本を食べると、ふっと我に返った様に私を見て言った。

 

「これ、食べたことある?」

 

私はキョトンとした顔をしただろう。

 

「う、うん。」

それしか言葉が出なかった。

 

「これ、すごく美味しいっ。こんなポテト初めて食べた!人気があるわけね。なんだか、ワクワクしてきたっ!」

 

子供みたいに目を輝かせて彼女はパクパク食べていた。私が初めてマックに連れてきてもらった時のワクワクを思い出した。

母親と2人でおもちゃ付きのセットを2つ頼み、おもちゃを2種類独り占めしたあの時。

嬉しそうな私を見て微笑んだ母親の笑顔と、私の嬉しい気持ち。

やっと出来た贅沢よりも2人の時間と母親の笑顔が私はたまらなく嬉しかった。

誰かと共有した秘密を持った嬉しさに

どこか似ている気持ち…

 

私が物思いにふけっている間に、彼女はバーガーもペロッと食べて言った。

 

「みんなに怒られちゃうから、食べたことは内緒にしてね!マナ、また会える?会いに来てくれない?私、病院にいるの。後で田所から場所を伝える様に言っておくから。これはきっと神様からのプレゼントよ!このマナとの出会いははきっと!」

 

自信の溢れた表情の彼女の瞳の中に私が見えた。

 

一私の存在がある。一

 

誰にも必要とされない

誰にも存在が認めてもらえない

どこにも居場所がない

 

そう思っていた私が綺麗な真っ直ぐな瞳の中に住んでいた。

 

飲んだコーラが血として体を流れてくるような、生きている生々しい自分を久しぶりに感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その春風に吹かれて(仮題)⑶〜真奈編〜

 

ー目が覚めなければいいのにー

 

そう思って目がさめる。

 

また同じ1日の始まりだ。

部屋からでてみる。

親は帰ってきてない。

AM6:32

歯磨きをして昨夜コンビニで買った今朝用の

パンを食べる。

流れ作業の様に無心で制服を着る。

居場所のない学校へまた今日も向かう。

 

無気力

脱力感

空虚感

 

すべてシックリくるワードだが引きこもりに

なる勇気もない。

結局、何にも出来ないんだ。

 

何にも感じないまた同じ1日を過ごす。

 

今日も無視され続け誰とも会話する事なく

1人で行動し1人で下校する。

 

また踏切の前に立つ。

今日は何だか踏切を越えれそうな気がした。

一歩づつ踏み出す。

 

カンカンカンカン

電車が近づいてきた。

 

『もういいよね…』

 

頭の中を母親や学校の友達がよぎった。

 

悲しいとかよりも安らぎを感じた。

 

遮断機をくぐろうとした時だった。

 

「オイッッ!!」

声と同時に手首を掴まれ引っ張られた。

 

ドンッと尻餅をついた瞬間、目の前を電車が走り去った。

 

「大丈夫ですか?!」

振り返ると、ハァハァと息を切らした男の老人が私を引っ張った様だ。

 

私はまた生かされた。

今度は人の手を借りて。

 

「お名前は?」

今度は明らかにその男の老人とは違う若い女の声がした。

振り返ると、綺麗な黒髪で色の白い私と同じくらいの女の子が立っていた。

 

「申し訳ありません、

栞様、すぐにお車に戻りましょう。」

老人が言った。

「待って、よかったらご自宅までお送りするから、乗って」

知らない人にはついて行かないって

子供の時から大人達に言われてきたけど

この場合はどうなのかな。

もうどうでもいいか。

そんなことを思いながら、助けられた老人の車にその女の子と乗った。

こうゆうのって多分テレビとかでしか見たことないけど、お嬢様と運転手なんだろうな。

本当にこんな子いるんだ。

 

思わずついて来て車に乗ってしまったけど…

 

「お家はどこ?」

「あ、ごめんなさい。歩いて帰れるから…」

車から降りようとすると、女の子に

引き止められた。

「待って!ちょっとお話しできる?

田所!1番近くのマックに入って!」

 

マック…

お嬢様から意外な場所が出て来た。

マック行くんだ…

 

マックに入ることになった。

運転手のおじいちゃんは車で待っているらしい。

お嬢様は早歩きで入り口へ向かった。

「いらっしゃいませ〜ご注文がお決まりでしたらどうぞ〜」

お嬢様はキョロキョロして今月のオススメの写真が1番大きなメニューを指さした。

「ダブルBBセットですね!お飲み物をこちらの中からお選び下さい。」

意外と食べるんだな…

私はコーラの単品だけにした。

運転手にもらったお財布からお金を払っていたがお嬢様は基本的にお金を使わないんだろうなと思った。

おつりをもらわず席にいこうとした。

 

席に座るとお嬢様が言った。

 

「あー。緊張したー、実はマック初めてなの!

まだドキドキしてる!うまくできてた?初めてって思われたかな?」

私にはすごく新鮮だった。

マックに当たり前の様に来ていたから。

ただ彼女を見つめた。

「ごめんなさい。お名前教えて!」

「真奈。」

「マナ!私は栞(しおり)。マナ、さっきはどうしたの?」

私は少し目線をそらした。

「いや、ちょっと立ちくらみがして…

運転手さんが助けてくれなかったら

電車にひかれるところだったね。

本当にありがとうございます。」

「田所は運転手というより私の執事なの。

私も田所も通りかかった時になぜか踏切の前に立つマナが気になったの。田所はすぐに車を止めて走って行った。マナ…本当は…」

「お待たせいたしました〜」

タイミングよく注文していたものがきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その春風に吹かれて(仮題)⑵〜栞編〜

 

ー最後の一枚のあの葉っぱが 散った時に

私の命も散るー

 

私は17歳。

本当だったら高校に通って部活したり

今日のことや明日のことをツイートしたり

彼氏とデートしたり、友達とマックに行ったり

そんなことをして過ごしているのだろう。

それは完全に憧れだった。

 

両親や執事は詳しいことは教えてくれないが

私はずっとベッドの上にいる。物心ついた時から。

昔はそれが当たり前で、学校は

特別なことなのだと思った。

でもそれは逆で、私が特別だった。

病室の窓から木が見える。

昔、どこでそれを見たのか思い出せないが

病院の窓から見える木の葉が全部枯れてなくなったらその人の命も亡くなるっていうのがあった。

私もそうなのだとそれから意識したが

何度枯れてもまた新しい葉がつく。

私は生かされていた。

 

コンコンっ

カラカラカラ

「栞様、失礼いたします。」

執事は白髪のおじいちゃん、田所。

田所は優しくて何でも言うことを聞いてくれる。

「明日の外出届ですが、3時間だけ許可がおりました。車を用意いたしましたので昼食後

14時にお迎えに上がります。」

ニッコリ微笑んで言ってくれた。

私もニッコリ微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

その春風に吹かれて(仮題)〜真奈編〜

(電車の通過音)

プファーンッッッ

(遮断機の音)

カンカンカンカン

 

踏切を超えることもできず、ただ遮断機の前に立っているだけだった。

 

ー自ら命を絶つこともできない。勇気もない。

私は自分の無力に脱力感しかなかったー

 

トボトボと自宅のアパートに向かって歩く。

 

私は17歳。

母子家庭で男好きな自由な母親と2人でくらしている。

とりあえずで進んだ高校もみんな上っ面な仲良しごっこに嫌気がさして、距離を置くようにしたら完全に無視されるようになった。

 

何のために生きているのか。

自分が何をしたいのか。

毎日、目が覚めなければいいのに…と

眠りにつくが朝はちゃんと目覚めて

学校に行く。

 

何かをされるわけではないが

学校に私の存在がないことの"無視"という

苦痛はもっとも酷いイジメだと誰もわかってはくれないだろう。

 

帰宅途中にある電車の遮断機の前に来るたび

何度も踏切を越えようと思うが

思うだけで体は動かない。

電車が通過するといつものように自宅に帰る。

 

ガチャっ

自宅のドアを開ける。

母親と2人で住む2DKのアパート。

この時間は母親が仕事の準備をしている。

お風呂上がりで下着姿で化粧をする。

ふた部屋を1人づつの部屋にしているが

親はいつもドアを開けっ放しにしているから

玄関から入ったらすぐにその姿が見える。

「おかえりっ」

母親は私を18歳で産んだから年齢的にも見た目もまだ若い。

「ただいま。」

「あ、真奈!今日、急に同伴になっちゃったから夜ご飯作る時間なくなっちゃって、悪いんだけどコンビニでお弁当にしてくれる?テーブルにお金置いてあるから。」

マスカラをしながら言った。

「わかった。」

私はキッチンのテーブルに置かれた千円札を確認すると、部屋に入った。

 

ー何の為に生きているんだろうー

 

特にしたいこともなければ

特に気になることもない。

親は1人の方がいんじゃないかと思う。

学校は私の存在はすでにないから

私の居場所なんてどこにもない。

 

制服のままベッドに横になった。

毎日こんなことの繰り返しだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

色の無い世界10 〜赤の妖精〜

赤いおじさんが僕の肩に腕を回したまま
外へ出ようとした。

ガチャッ

ドアがまた開いた。

スラッとしていて
小顔で
ポニーテールをしている
キリッとした目の女の子だ。

僕より背が高い。

その子は鋭い目でおじさんを見て言った。

「誰?」

「おかえり!アール!お前に大事な話がある!
座れ!」

おじさんの口調はちょっと怖い。

赤いおばさんも
テーブルに座ったまま
ニヤっと意地悪な微笑みをしてコッチをみている。

みんなでテーブルを囲んで椅子に座る。

テーブルも正方形だ。

アールはジッとおじさんを見て言った。

「何?」

口調はクールだが
サバサバした感じが僕はなんだか
いいなって思った。

アールのほうに腕を組みながら
前のめりになったおじさんは真剣な顔で言った。
さっきの怒鳴り声とは違う低い声だ。

「ついにあの日がきた。
お前はコウと今から虹を渡る。
お前がやるんだ。」

アールはハッとした表情でおばさんを見た。

おばさんはアールを見てうなずいた。

目をまたおじさんに戻す。

おじさんの表情は柔らかくなっていた。

それから…

僕と目があった。

一度目をそらし、うつむいた後
スッと顔を上げて言った。

「コウ、私はアール。よろしくね。
赤い国から始まるんだから
もちろんリーダーはわたしよね。」

僕はリーダーなんて考えもしていなかった
から

「う、うん」

すぐに返事した。

「さーて!出発の準備をするわよ!
食料と飲み物と…」

おばさんがササッと動き始めた。

おじさんは席を立って外へ出て行った。

アールも席を立ってバックに荷造りを始めた。

そういえば、
僕は何にも持ってきていないな。

「あのー、おばさん。」

「ん?」

「僕、何にも持ってきていなくて、その…」

「あー!大丈夫!一緒に用意してるから!」

「あ、ありがとうございます。」

赤の人達ってあんまり説明しなくても
すぐに理解してくれるし
テキパキしているな。

おじさんが戻ってきた。

「コウ!こいっ!」

僕を外へと呼んでいる。

僕は席を立って外に出た。

赤い自転車が2つ並んで置いてあった。

マウンテンバイクのようだ。

「かっこいいだろ!乗っていけ!」

おじさんは僕の頭を撫でながらいった。

「え?!いんですか?ありがとうございます!」

僕がおじさんを見上げると、
おじさんはニッコリして
手に持っていた赤いキャップを
僕にかぶせてくれた。

「お前!赤、似合うな!」

そういえば、僕の服装は
白いTシャツにグレーのパーカーに
黒のデニムパンツだ。

アクセントの赤が効いているようだ。

「被ってけ!」

おじさんはキャップもくれた。

僕はニッコリして
頭を下げた。

「じゃぁ、行くわよ。」

アールとおばさんが出てきた。

アールが僕に赤いリュックをくれた。
荷物が入っているようだ。

アールも赤いリュックをからっている。

アールは自転車の前に立つとクルッと振り返り
おじさんとおばさんを見て言った。

「行ってきます。必ず役目を果たしてきます!」

女の子なのに、キリッとした目の力強さと
たくましさをまとっている。

「おう!お前なら大丈夫だ!
責任を持って行動するんだ!
危険なことには気をつけろ!
女の子なんだからな!」

「しっかりね!愛してるわ、アール!」

僕も2人に頭を下げた。

「ありがとうございました!
いってきます。」

2人共、自転車にまたがると
アールが先頭で出発した。

森から続く道に出て、森とは反対に進む。

前を走るアールのポニーテールが
風になびいていた。

その後ろ姿は女の子だった。

















色の無い世界⑨ 〜赤の妖精〜


ガチャッ

赤いおばさんの家のドアが開いた。

おばさんの家は
真四角なのでドアが開くと誰が入ってきたか
すぐに見える。

今度は赤いおじさんだ。

赤く短い髪。
赤いメガネ。
赤いTシャツに
赤いサスペンダーをした
赤いズボン。

背は高く体型は普通。

「お前はなんだ!!」

僕と目が合うと
いきなり怒鳴り声を上げられた。

学校で授業中に先生に怒鳴られた時のように
僕は思わず、椅子から立ち上がり
ピシッとなった。

「こ、こんにちわ!」

「ちょっと!!いきなり大きな声出さないでよ!!この子を誰だと思ってるのよ!!
ほんっとに短気なんだから!!

僕の声をかき消すように
おばさんがすぐにフォローしてくれた。
だけどおばさんも口調が強いから
なんだか喧嘩でも始まりそうな
気まづい雰囲気だ。

おじさんはこっちへ歩いてくると
しかめっ面で
「お前、なんだ?!どっから来た!?」

僕が口を開こうとすると
再び、すかさずおばさんが言った。

「この子は虹を渡る子。
そして、アールがそのお供よ。
…あんた、ついにこの日がきたのよ!」

それを聞いたおじさんは
目を大きく開くと

「そうか!!それなら話は早い!!
さっきは怒鳴ってすまない。
すぐ、カッとなってしまうからな。
よし!アールが帰ってくるまで、赤の国を
案内しよう!
お前、名前はなんだ?」

おじさんは僕の肩に腕を回した。

「コ、コウです。」

まだちょっとビクビクしている僕を見て
おばさんが言った。

「コウ!そう言えば名前聞いてなかったわね!
娘の名前はアール。私はその母親で
そっちは父親よ。」